医水民の日常

横浜市立大学医学部水泳部のブログです。

SF系YouTuber feat 藤子・F・不二雄

2020年、季節は夏。

一人暮らしを始めるために安いアパートの部屋を借りた主人公。

2階建てのアパートの2階、角部屋。最寄り駅は金沢文庫駅

 

ただ彼は、その部屋が、幼い頃にみた「3人のおじさんが言い争いをしていた夢」に出てきた部屋にそっくりだと感じ始めていた。

 

主人公は医学部の新入生で、どの部活に入部しようか部屋で考えていた。

「どの部活が自分に合っているのだろう。今のところやりたい事も決めてないし、このご時世じゃ新歓もまともに出来なくて、全体的に情報が少なすぎるんだよなァ」

「正直SNSじゃ雰囲気も分かりづらいし、、」

すると突如、主人公の前に、1年後の自分、つまりは2年生の自分が現れた。彼曰く、1年後にはタイムマシーンが開発され一般人にも普及されているらしい。

半袖シャツの彼は言った。

「部活は水泳部がいいと思うよッ」

「どうして?」

「水泳部は、月水土を活動日にしているんだけど、ここだけの話、大会が土曜日に開催されることがほとんどで、開催場所も金沢八景キャンパスなんだ。だから基本的に遠征費はかからないし、日曜日が空いてバイトや遊びの予定を確保できるんだッ」

「水泳部以外は違うの?」

「それはいい質問だね。水泳部以外の運動部の多くは、活動日とは別に日曜日が大会遠征で埋まってて現実は、、っていけねェ。これ以上は言っちゃいけないんだった。悪いが今のは忘れてくれッ」

どうやらタイムトラベルには破ってはならない掟(ネガキャン)があるらしい。

なるほど、水泳部は運動部とは言っても活動頻度はちょうどいいのか、一人暮らしにとって遠征費が多くかかるのは避けたいし、、いいかも。

主人公は悩み始めた。

するとまた、突如として主人公の前に未来の自分が現れた。話を聞くと、今度は4年後の自分らしい。つまりは5年生だ。パリ五輪が~と話し始めたが、ネタバレになるので主人公は4年後の自分を一回殴って黙らせた。

スクラブを着た4年後の彼は、痛がる演技をやめてこう言った。

「水泳部はやめておけ」

「どうして??」

他の2人は声を合わせて聞く。

「水泳部は部内恋愛が少ないんだ。一昔前はお盛んだったらしいが、今では部内のカップルは一組もない…!跡形もなくなってしまったんだ…。あとは、活動場所が八景で2年生以降は講義が福浦であるから移動が少し面倒だぜ」

「まァ今のをまとめると、あの部活にもう『出会い』はないってことだな」

出会いが少ない部活か。主人公は再び悩み始めた。彼にとって、受験勉強に明け暮れた青春は別に全然楽しかった。ただ、いわゆるアオハルではなかった事を思い出す。

あとは、活動場所が八景なのか、1年生の時は便利そうだけどそれ以降の学年では不便なのか…?実際はどうなんだろう?新歓で先輩に聞いてみようっと…。

 

黙って聞いていた2年生の自分が5年生の自分に問いた。

「じゃあ、俺は大学生の間ずっと彼女がいないってことかよ!?」

主人公は悟った。少なくとも先1年は彼女ができないことを。

5年生はおもむろに話始めた。さっきから演技派かよ。

「いや、、そうではない。いつかは言わないが、実は水泳部内で年上の彼女ができる。だが、初の恋愛は失敗が続々でうまくはいかなかったんだ。1年少しはもったが、それ以上は続かなかった。おかげで、部活に居づらい時期もあった。部内恋愛は後が大変だからなァ…」

(そうなのか…でもそれはどの部活でも同じだろう?何も水泳部に限った話じゃない。それだけで水泳部に入るなっておかしいんじゃないか?まァでもショックだな…)

心の中で主人公は思った。

しかし、このことは2年生の心を傷つけてしまったようだった。

彼女はできるが、その彼女とは1年後に別れるなんて告知、正直メンブレしてしまっても無理はない。今の主人公にはまだない、早急に彼女が欲しいという性欲が彼を激しく掻き立て、そして裏切られたのだろう。

ここから、議論は白熱した。

「水泳部に入るべきだッ!部活は恋愛をする場所ではないッ!」

「いや、水泳部に入ってはだめだッ!恋愛はなッ!大学生の命なんだッ!!」

譲られない意見の言い合い。永遠ループ

半ば呆れつつ、その様子をただ見つめていた主人公。

未来の自分達はこうも自分勝手で醜いのかと悲観し、医学部に入ってからの日常に一抹の不安を持ち始めた。大学デビューを飾る面々、twitterInstagramをはじめとしたSNSでの匂わせ投稿、試験前に発揮される勉強マウントの取り合い…。

先が思いやられる。

夏のはずだが、どこかぞっと寒気のするこの部屋をもう出たくて仕方がなかった。

 

未来の自分たちが行っているこの奇妙な言い争いを、別の言葉で『自分会議』と名付けた。

自分に1番都合の良い方法を押し付け合うばかりで一向に進まない状況に、会議という言葉が合っているのかは定かではないが。

「そうだ、子供のころの自分を連れてこよう」

紛糾する彼らがたどり着いた答えは、幼い頃の自分を連れてきて、この会議に参加させ決めることだった。

タイムマシーンで連れてこられた幼い頃の自分。

目の前では主人公を含め、知らない大人3人が『自分会議』をしている。

(そうだ、思い出した。幼い頃に見た夢に出てきたおじさん達、そしてこの部屋、全部一緒だ。でも、あのときとおじさん達の来ている服、この話し合いの内容がどこか違う気がする)

幼い自分は激しくおびえていた。

それはそうだと思う。言い争いを繰り広げる知らない大人達に囲まれ、怖いと思わない子供はいない。

議論の最中、半袖シャツを着た2年生とスクラブを着た5年生が激昂し幼い頃の自分に向かって叫んだ。

子供でもわかるように、簡潔に。

「プールに入りたいか!!!???」

幼い自分は泣きながら、

「はいりだいッ!!!!」

そう答えた。

主人公はこの夏、医水民となった。

 

 

~あとがき~

 主人公が今いる世界は、2020年夏。新型コロナウイルスパンデミックに伴う超緊急事態宣言により、大学の授業開始がさらに遅れ、夏まで延長した世界である。

新型コロナウイルスの蔓延が起こらず、例年通り新歓シーズンが春だったら、この『自分会議』も春に起きていただろう。未来の主人公たちも長袖を着ていた、そんなパラレルワールドだったはず。

プールに入りたいかと聞かれた幼い主人公は、「夏だったから」プールに入りたいと答えたのかもしれない。はたまた、水泳が好きだったのかもしれない。

だが、いずれにしても(後者なら部活に来い)もしも季節が春だったら、寒くてプールには入りたくないと言い、怖くてあの場から逃げ出していたかもしれない。

逃げ出した先は?主人公が暮らすのは2階の部屋だ。

幼い主人公は勢いよく走りだし、そのまま窓から落下する。

部屋に残された3人の大人たちは一斉に

”ポンッ”

 

それではお次の方にお任せします。

スープを一滴たりとも残さず飲む彼女へ。バトンタッチ。