医水民の日常

横浜市立大学医学部水泳部のブログです。

KEEP CALM AND CARRY ON

 男気じゃんけんで惨敗を喫し、幹部リレーアンカーになりました。ちなみに、幹部男気チャンピオンは知佳。他の三人を一蹴する男気溢れるチョキで、先頭をかっさらっていきました。

 現役残りの練習日ももうあと2回となった今、私の考えて来たことを書こうと思います。

 7月の練習も終わり、医水ライフを振り返ったときに思い出す医水のいいところの一つとして、誕生日をお祝いしてくれるという伝統があります。人の誕生日を記憶するのが苦手な私にとっては、本当に素晴らしく映ります。今年私が23歳の誕生日を迎え、率先して幹部の平均年齢をあげてしまった時、実は照れて言えなかった今年の抱負がありました。「クリエイティブに生きる」ことです。

 小さい頃から、物を作るのは大好きでした。しかし医学部に入って思っていたことは、学ぶ機会と学ぶべき事柄はたくさんあるけれど、新しいモノや考え方、概念、哲学を創造する創造性を実感する機会が少ないということでした。そんな中で、リサーチクラークシップは、実際に行われている研究に3ヶ月間加わることで、医学における創造性を垣間みることができる絶好の機会でした。現場の人間に創造性があるなら、現場に数々の革新をもたらすことができるでしょう。有形であれ無形であれ、自分でなにかを生み出すエネルギーと喜びを忘れないでいたいと、常日頃思います。

 クリエイティブな発想を培うための具体的な日々の過ごし方を探すべく、まずは自分が日々をどのように過ごしているのかを振り返りました。

 気がつけば、私たちは日々いつかの成功のための準備に時間を費やしています。今日出かける前、起床・着替え・洗顔・歯磨き・メイク、トータルで何分かかったでしょう。来週のスケジュールの変更を調整したり、構わず授業プリントを放り込んでパンパンになってしまったクリアファイルの中身をちょっと整理したりするのにも時間を費やしたかもしれません。学校に行けば、8時50分〜16時の間は授業で、出席を獲得しなければなりません。これらのことは全て、小さいことですがその日なり明日なり来週なり、いつかのために必ず必要な活動です。つまり、人は成功自体より、むしろいつかの成功のための準備や日常の雑事に日々時間を多く費やしているということです。

 日常の小さいことではあるけれど、その準備はいつしか自分の骨身となり、成長につながります。個人的には、成長とは直線ではなくシグモイド曲線(医2、生化の試験お疲れ!!)を呈すると思っています。普段地道に積み重ねて来た努力が、あるきっかけに巡り会った時に人を一気に加速させ、ぐんと成長させてくれる、そういうイメージです。対して「日々成長あるのみ」とは直線的な成長目標ですが、たしかにそれができたら結構だろうけれど、本当に毎日同じように頑張り続けて飛躍し続けることが果たして現実的な目標だろうか。あらためて考えてみると、非現実的に思えます。

 いつかの自分の成功を創造するため実際に大事なのは、日課として繰り返されているような、成長を支えるそれまでの地味な準備です。これをたゆみなくこなすには、意気込みや気合いといった曖昧なスポ根ではなく、将来の自分の目標を意識しつつ、目下の課題を片付けていくための生活全般を包括的に考慮した実践的なシステムを考えることが大事でしょう。将来を見据え自分が何者なのかしっかりと頭に置きながら、普段の生活での出来事、やるべきことをどのようにこなして行くか、やりくりの仕方を考えて過ごすということです。

 英国元首相のマーガレット・サッチャー氏が発した有名な言葉があります。「考えは言葉になり、言葉は行動になり、行動は習慣になり、習慣は人格となり、人格は運命となる。」こうして思考を巡らせて毎日の過ごし方を考えてゆくことで、その日1日の発言や行動が決まり、日の積み重ねで長い年月にわたる習慣が形成され、その人の価値観が養われて行くのだと思います。価値観はとても大事なものです。迷ったとき、今までの人生で形作った価値観を頼りすれば、正しい所に戻って自分の目指すべきところを再度確認し、土地を切り開いて道を創り直すことができるからです。例えると、価値観はその人の北極星、目標や運命はその人が旅の果てに目指すゴールのようなものだと思います。

 サッチャー氏の言葉の中で、今学生である私たちに最も大事なのは、「考え」るところだと思います。モラトリアムとは、社会に出る前に人生で最も柔軟に思考を巡らせることのできる時間かもしれません。人生80年あるとして、我々はすでにその1/4を終えてしまっています。時間には限りがある中でも日々を大切に、たえず考えながら過ごして行くことは、私たちがこれから歩むべき道を正しく判断するために必要な価値観を創造し、ゆくゆくの運命を創造するのだと思います。

 では、医師の卵であり科学者の卵であり小さなスイマーでもある私は、どのようにして毎日を創造してゆけばよいだろうかと考えました。主将になって最も大きな課題だったと思います。主将というものは雲をつかむように曖昧なもので、実は実際の仕事が決まっているわけではありません。「威厳を持って」「周囲の期待に応える」「みんながついてくるように」色々と主将のイメージはあると思います。でも実際になってみて思うのは、この医学部水泳部という団体には様々な人間が属しており、描かれる主将像は非常に多様で、実際にすべき仕事を見極めることが難しいということです。仕事も責任も実際は思っていた以上に曖昧で、具体的行動が不明瞭なこの役職に1年間どうやって向き合おうか…非常に悩みました。そうやって考えた末、去年に引き続いて自分にいつも言い聞かせるようになった言葉がKEEP CALM AND CARRY ON、至った目標が、部員の価値観を大事にするということでした。

 KEEP CALM AND CARRY ONというこの言葉、直訳は「冷静に、営みを続けなさい」です。もともとは1930年代に戦争が勃発して街でパニックがおきないよう、市民に平静を保たせるためイギリス政府が作ったポスターの宣伝文句だったそうですが、戦後再発見され、いまではイギリス国民誰もが知る励ましの言葉となったそうです。

 学生の間は考え、自分なりの価値観を形成することがとても大切だと思います。水泳は、私達に様々な経験を与え、考えることを要求します。その中で、冷静に(KEEP CALM)、学生生活の一部としての水泳について考えることを続ける(CARRY ON)こと、これがとても大事なのです。水泳に対する熱という意味ではありません。部員の各々がもっと違う尺度を持って水泳に向かって来たと思います。考え続けることで形作られて来た価値観は、その人の経験から生み出された血肉です。主将である私は、そうやってみなさんが長い時間をかけて創って来た価値観を大切にしたいと考えて来ました。「体調悪かったら無理しないで下さい」と言い続けたことも、選択肢を限定せず、部員の皆の価値観を大切にすることの一環のつもりです。

 価値観には、その人のそれまでの生き方と目指す将来が投影されています。違う価値観に巡り会った時は、その存在を知ることが大事であり、決して批判したり排除したりしてはなりません。その価値観自体が非道徳的なものでないかぎり、人の価値観を否定することはその人の生き方を排除することに等しいからです。たった40人の集団である医水にも様々な価値観が森の木々のように乱立していますが、ときどき枝同士がぶつかり、傷つけ合っている様子が見受けられます。他の価値観に対しての寛大さも、集団ではとても大事な要素です。

 3年間の部活生活では様々な経験をしました。私は幾度も価値観を確認し、できるだけ冷静に自分の営みを続けられたと思いますが、部活を続けられたこと自体は私一人の力ではなく、支えてくれた部員や家族、友人がいたからです。また、人数が少なかった私たち幹部でしたが、ブログに書いてくれた通り本当にずっと幹部全員を支えてくれた知佳、お豆腐から高野豆腐メンタルに進化しつつ部員をいつも励ましてくれた祐紀ちゃん、水泳に情熱を燃やしながらいつも綿密に仕事をこなし、私のそばにいてくれたまいまいがいてくれて、幹部の仕事ができました。一緒に仕事をした期間は短かったけれど、笑顔を絶やさず会計のお仕事をしてくれた晃子が幹部にいてくれたのも、本当に幸運でした。引退なさった先輩がたにも大変お世話になりましたし、普段の部活で明るく接してくれる後輩にもずいぶん救われました。

 さて。気がつけば、東医体まで10日を切ってしまいました。看護のみなさんにとっては、今日が最後の練習日ですね。私は実はすでにかなり緊張していますが、東医体で泳げることが嬉しく、非常に楽しみです。

 正直言って、毎週日・火・金の夜は明日の朝が来ることに対して、月・水・土は朝が来てしまったことに対して、憂鬱と緊張を抱えてこの1年間生きて来ました。それでも、いろんな人に支えられながら部活を続け、私はずいぶん速くなりました。特にこの1年間では、とても苦手だった長距離Frを克服し、かつタイムを縮めることができました。

 東医体では、今まで積み重ねて来た部活生活に爽やかにさよならできるよう、支えてくれた人に感謝をこめて、3年間の水泳部生活で培った力の限りに泳いでこようと思います。これが、東医体2日間を最も創造的に過ごすための目標です。

 KEEP CALM AND CARRY ONという言葉、たぶん私は今年も泳ぎながら思い起こすと思います。もしよかったら、皆さんも泳いでいる間、苦しくなったら思い起こしてみて下さい。ここまできっといろいろ思いながら、こんなにたくさんの練習に耐えて来た皆さんです。冷静に落ち着いて頑張れば、必ずいい記録がでるはずです。

 自信を持ってプールに飛び込んでください。